日は、伸びた。
しかしその分なのか、日が暮れるまでの速度は、心なしか早い。

三人が大塚村に付く頃には、空は真っ赤に燃えていた。
赤い光に照らされた大塚村の田はきらきらと橙を反射させていた。

「綺麗ね」

道々、気を使ったのか話を止めることの無かった浜路が、ほうと嘆息する。

確かに、その情景は確かに綺麗で、信乃も額蔵もしばし見とれた。
しかし、小さな連帯感は長くは続かない。

犬塚家は、大塚村の中心から大きく外れた場所に居を構えている。
近所と呼べるのは隣の一軒のみのあばら家は、今にも森に飲み込まれてしまいそうな場所にあった。

何時もは静かな家からは、女の猫なで声が流れ出して来る。
声の主は、すぐに分かった。

不快感に、眉が寄る。

額蔵がピッと表情を引き締めたのが、視界の端に映った。

「与四朗」

信乃は鋭く愛犬の名を呼び、浜路と額蔵の傍から離れる。

「…浜路、気を付けて帰れよ」

それだけ言うと、信乃は家へと駆けて行った。