01. 告白 [64文字]
青い青い空を、胸一杯に吸い込んだ。
押し出す言葉は、脳裏に描いた彼らへ。
この声、届け。
届くな。
真っ直ぐに告げるには、面映ゆいから。
[ありがとう、それから、ずっと――]
02. 嘘 [64文字]
助けが要るほど柔じゃない。
差し出した手を笑い飛ばされても、嘘吐きめ、とは、言えなかった。
言えば、崩れ去りそうな気がしていたから。
[それは最後の防護壁]
03. 卒業 [61文字]
月が、揺れている。
暗く黒いプールの水面で。
白く照らされた二つの背中は、一体何を思うのか。
未来の扉が、大きく口を開けていた。
[答えなんて出なくても、]
04. 旅 [63文字]
ぶらぶら歩く帰り道。
時間が違う、道が違う。
たったそれだけで、何処か知らない町の様。
不安にならないのは、君と右手をつなぐから。
[『いつもの街』旅行]
05. 学ぶ [61文字]
今回は大丈夫!
胸を叩いた同級生は、答案片手に青い顔。
根拠の無い自信ほど当てにならないものは無い。
テスト前限定教師は学んだ。
[学生生活の苦味]
06. 電車 [62文字]
電車は進む、アンニュイ気分を乗せたまま。
このままワザと乗り過ごそうか。
そんな事を考えていたら、挨拶ついでに後ろ頭を叩かれた。
[まるで、傘]
07. ペット [61文字]
無理難題にダメだと答えりゃ、顔を曇らせしょぼくれる。
仕方無しに頭を絞れば、下る評価は犬みたい。
一体どっちに言っているんだ。
[感情に素直な奴と意外と律儀な奴]
08. 癖 [63文字]
ヘッドフォンを頭に付けて、孤独を楽しむポーズ。
目元を隠すように引かれた前髪が、考え事の証。
口にした台詞を悔いて、唇を噛みしめた。
[より痛いのは、引かれる前髪か噛みしめられる唇か]
09. おとな [62文字]
滲んだ視界の中でぷかりと紫煙を吐き出した唇が、がきと一言紡ぐのを見た。
目の前の不感を成長と呼ぶのなら、一生ガキでいたかった。
[達観と諦観と]
10. 食事 [64文字]
隣から伸びて来た手が、彩りのない弁当箱からおかずを一品さらっていく。
口に放り込んで美味しいと笑顔。
明日の朝も、早起きを決めた。
[分かりやすく絆される]
11. 本 [64文字]
聞いているのかいないのか、返る返事は生返事。
ぺらりと頁が進み、進まないのは意思疎通。
そんなに本が楽しいか。
抗議の声すら流される。
[活字中毒]
12. 夢 [62文字]
山が、燃える。
紫の峰が緋色に染まる。
冷たい空気で肺を満たして、地面を蹴った。
ここから、一歩でも前へ。
立ち止まる暇なんて無い。
[ここで終わる気は無いから]
13. 女と女 [64文字]
ワンピースを着た子どもの写真。
騒がしい部室の隅で、過去の子どもは座り込んで、制服のズボンに火照る顔を隠した。
姉と母とを恨みつつ。
[脅威の情報網]
14. 手紙 [64文字]
隠すように仕舞っていた本を取り出せば、こぼれて舞った紙が一片。
捨てることなど出来そうにない、果たし状と殴り書かれた元王者への恋文。
[ラブレターより、甘く]
15. 信仰 [63文字]
速く速くと水を掻く。
この距離ならば、あいつが何とかしてくれる。
壁を叩くと同時に、背後で上がる少しの飛沫。
声の限りに叫んでいた。
[信頼と言う名の信仰]
16. 遊び [63文字]
机に貼られた大きな付箋紙。
踊る文字が、呼び出しを告げている。
青空に折り上げた蛍光色の紙飛行機を送り出して、乱雑な机を後にした。
[何処までも飛んで行け]
17. 初体験 [64文字]
バシャリと水面が弾けた。
白い拳は微かな痛みを残して、沈む。
跳ね飛ばした水が、雫と変わって頬を伝った。
じわり、喉が焼けた気がした。
[器から零れ出る]
18. 仕事 [64文字]
仕事だよ。
重く沈んだ部室の空気に、眼鏡の向こうに視線を投げる。
+αのマネのお仕事、部内環境正常化。
共謀者は面倒そうに髪を混ぜた。
[地味に必要で、とても大切]
19. 化粧 [64文字]
耳にピアスを。
髪を無造作に。
自分は自分で、誰にも似ていない。
同意を求めて鏡の中の自分に笑い掛けたら、厚化粧の母と同じ顔になった。
[ツクリモノの類似点]
20. 怒り [63文字]
代わりなんかいくらでもいる。
事実を吐き捨てたら、思い切り頬を殴られた。
血の味の不快感とは裏腹に、嬉しくなったのは、一生の秘密。
[甘えたの思い]
21. 神秘 [64文字]
ゴーグルを手放した。
ゆらり、ゆらゆら、青に沈んでいく。
もうこれで、全部終わり。
目を開いたら、プールサイドで煙草をくゆらせていた。
[セイレーンに囚われて]
22. 噂 [64文字]
肩と肩とを突き合わせ、語られるのは怪談話。
漏れ聞こえた慄く声に、プールのずぶ濡れお化けは溜息を吐いて、色の抜けた髪をかき混ぜた。
[まさかの事態]
23. 彼と彼女 [62文字]
笑い合って、小突き合って、ただそこに居るだけで優しい二人。
見ているだけの自分に、対抗する術は無い。
気付くのが早くてよかった。
[矢印記号の虚しさ]
24. 悲しみ [65文字]
清々するといくら憎まれ口を叩いても、曇天を仰いだ横顔が空と同じで泣き出しそうだった。
だから、隠した気持ちに賛同して、微かに笑った。
[偽悪者と本音]
25. 生 [63文字]
見上げた薄雲、舞う桜。
未だに馴染まない視界のガラス板。
目を閉じて、耳を押える。
こうこうと、潮騒にも似た音が右側から満ちて来た。
[まだ、]
26. 死 [64文字]
強い光を浴びながら、見上げた空の色が映るプールに浮かぶ。
柔らかな心地よさに、このまま沈めたら。
君の声で、水底に足が着いた。
[束の間、願ったものは]
27. 芝居 [63文字]
教師の顔には、冷めやらぬ怒気。
プールと闇夜とを思い出したら、思わず口元が緩んでしまった。
俯いて考えるのは、見咎められた時の言い訳。
[反省中?]
28. 体 [65文字]
雲が流れて、月を隠した。
目の前には、暗い黒い水がたゆたう。
白い台に立つ足が、かたかたと揺れている。
正直者め、と小さく悪態を吐いた。
[嘘が効かない相手]
29. 感謝 [64文字]
届け、想い。
風に舞う桜の様に、散らないで。
祈りを込めた上ずる声に、振り返った背中。
ありがとうを、季節外れの「ロマンスの神様」に。
[Girl meet boy 恋しちゃった瞬間]
30. イベント [62文字]
銀の鍵には4つの動物。
傍らの2つを加えて、ポケットへ。
足取りは軽い。
踏み出したら、カチャリと増えたキーホルダーが音を発てた。
[キーホルダー=部員の数]
31. やわらかさ [62文字]
痺れた口元を拭う親指が、赤く染まった。
ばかだなぁ、と腫れた顔同士を見合わせた。
弛んだ頬が鈍く痛む。
暮れ行く陽が、柔らかかった。
[君が笑った日]
32. 痛み [63文字]
さよならを後に残して、何事も無く踵を返した。
認めないと静かな声が追って来る。
進む足が動かなくなったのは、掴まれた腕が軋むから。
[他に痛む場所なんて、]
33. 好き [62文字]
ふわり、午後の光が部室に差し込んでいる。
ここには、放たれた「嫌い」を否定する理由が満ちていた。
沈黙が、ほら。
こんなにも柔らかい。
[兄弟のそれに似た]
34. 今昔(いまむかし)[64文字]
香り立つ塩素と水の音、時を数える声。
遠い日々に思いを馳せて、ふわり、煙を吐いた男は、過ぎる陽に目を閉じた。
苦い煙草を捻り潰して。
[苦いのに、]
35. 渇き [63文字]
行って来るね、と重いお腹を抱えた母と荷物を提げた父が出て行った。
祖父母と三人、残された自分。
今すぐに、水の腕に抱かれたかった。
[足りないものは何だろう?]
36. 浪漫 [64文字]
罵詈雑言を放つ不良ぶった先輩と、それを飄々と流す教師に向けて、カメラをカシャリ。
乙女の浪漫らしいと言ったら、紙の礫が顔を襲った。
[別名生きる糧]
37. 季節 [61文字]
誰かが、声を潜めて泣いている。
ドアノブに手を掛けた瞬間、気付いた。
きっと、大丈夫だ。
聞こえない様に呟いて、そっと微笑んだ。
[通り過ぎる季節と知るから]
38. 別れ [62文字]
道端に、油蝉が落ちている。
篠突く雨の様な音の洪水の中、一足早く夏を終えた命。
指先が、じんと痺れる。
夏との別れが、惜しかった。
[バイバイ、自由と放埓の日々]
39. 欲 [64文字]
寝床で受けた着信に、睡眠欲に従う事を宣言した。
家にでかいプールがある奴はいいなと羨ましげな阿呆に称号を贈ろう。
救いの無い水泳バカ。
[睡眠欲≠スイミング欲]
40. 贈り物 [65文字]
これで二人目、見知らぬ人から祝われる誕生日。
首を傾げた少年が、背中に張られたツギハギの「誕生日オメデトウ」に気付くまで、あと僅か。
[たくさんのおめでとうを、君に]