たんすのコドモ


家族の寝室をあけると、廊下の光が一条、室内を照らした。
僕は、闇の中に素早く滑りこむと、後ろ手に扉を閉める。
部屋は、一つの寝息と安息の闇に包まれて、僕は手さぐりに進んだ。

この部屋に眠る子どもを起こしてはいけない。

ゆっくりゆっくりと闇を探り、自分の場所を探す。
寝息に混じって聞こえてくるのは、おっきい爺の怒号だ。
どうやら今夜も、夢現のおっきい爺が、訳のわからない妄想で、大人たちを振りまわしているらしい。
壁があっても、床があっても、声は意外と聞こえてくるものだ。

寝息を邪魔しないよう、小さくため息を吐いて、それから僕は、僕の寝床にゆっくりと体を横たえる。
今日は、失敗せずに済んだ。
隣に眠る、妹の寝息は乱れない。
この前は大きく伸ばされた足を踏みつけて、たくさん泣かせてしまったから。
ママが急いで上がってきたけど、下から怒鳴り声はやまなくて。
朝、おっきい爺の部屋の畳と、じーの仕事着がコゲコゲになっていた。
ばーは隠れてちょっと泣いて、みんな僕のせいだった。

でも、今日は、失敗しなかった。
胸のあたりがほこほことあったかい。
僕は、横を向いてぺたりとタンスにくっ付いた。
これは、僕が思いついた中で、一番いい方法だと思っている。

消せないなら、枠と一緒になっちゃえばいいんだ。

二つ並んで延べられた布団で、僕と妹、ママとパパは眠る。
こういう眠り方を、川の字と言うと、母さんは笑った。
でもそれは嘘。
小学校に上がったばかりの僕にでも分かる。
川の字には一本多い。

余計なのは誰だ?
それは僕。
だって、僕がもともと寝ていた場所は、妹の場所になったんだから。

僕の場所が妹の場所になってから、僕はしばらくじーとばーと寝ていた。
三人で川の字。
僕はまた川の字の中に戻れてうれしかったけれど、最近、おっきい爺のカンシャクが酷くなった。

僕は、二階に戻された。
また、川の字の要らない棒になっちゃった。

漢字の書き取り、先生は言う。
「間違えて要らない線を書いちゃったら、消しゴムできれい聞けしましょう」
僕は僕を消せる消しゴムがどこにあるかなんて知らない。

でも、僕はノートの間違いと違って動けるんだ。
だったら、枠と一緒になっちゃえばいい。
黒い枠の上に書いてしまった線は、ちょっと見難くてそこには無いみたいに見えたから。

僕はタンスに寄り添って眠る。
体を固くして、なるべく細くなって。
だって、消さなきゃならない線が目立ったら、川の字は間違いになってしまう。

床に押し付けた耳からも、おっきい爺の怒鳴り声が聞こえてきた。


 * * *


「おはようございます」

あいさつをしたら、パパは笑って言った。

「昨日の晩も、『タンスのコドモ』だったな」

えへへと照れて笑ったけど、ちょっと泣きたくなった。
でもそれはきっと、僕の大発見をみんなに自慢出来ないからなんだろうな。





理由


差し出された手は、欲しかったもの。
狂おしい程に、欲したもの。

けれど、掴んではいけない。
それ無しじゃ、生きていけない自分になってしまうから。
人の手は、気分次第で消えてしまう。
その後に残された自分は、きっと、何処までも無様だ。






言葉の限界


この気持ち全てが伝わったならどんなに幸福か。
悲しみも苦しみも共有できたなら、もっと優しくできるのに。
傷つける事無く過ごせるのに。

言葉はいつも想いそのままを伝えない。
感じたままは伝わらない。

もどかしい。
言葉は、あまりにも無力だ。






ある種、所有欲


苛立った。
知っていると思っていたものが変わって行くという事にただ、苛立っていた。

理不尽で、子ども染みた感情とは気付いている。
判っている。

それでも感情を理性で希釈しきれるほど、大人ではなかった。






木田高に関するetc


・四階建て八教室
・各学年280人前後
・七クラス編成
・一階に事務室、保健室
・二階に職員室、教員資料室
・別棟は三階建(下から図書館、教室×2、自習室)
・屋上に続く階段から先は立ち入り禁止
・一応進学校
・二年進級時に文理、国公立受験、私立受験に分かれる
・上履きのライン色は緑、赤、青の三色で、三年間同じ色
・げた箱は一、二年用と三年用の二か所
・校門は木田駅正面の正門(南)、弓道場横の北門、
 チャリ小屋横の裏門(東)
・東の塀南側は神社(東の塀の北側、西のネットには民家)
・プールの授業は選択制
・制服は男女ともにモスグリーンのブレザーで下は黒、
紅のネクタイ(女子はリボン)
・女子のスカートは膝丈、靴下は黒か紺(ワンポイント可)
・指定の夏用のクリーム、冬用のキャメルのニットあり
 (ブレザー脱いだ上で着用も可)
・靴はローファーを推進しているが、うるさくはない
・カバンは自由
・体育館の使用は少し離れた市民体育館を借りながらローテーション
・開門七時、閉門九時





各々の制服


早瀬あさぎ
 基本校則通り。
 首元のボタンを第一だけ開けている。
 足元はスニーカー。
 アディ●スとかナ●キとかで白が基調の物を三種類程度所持。
 ブレザーは早々脱いで夏ニット派。
 ベルトは黒系で、学校指定ではないもの。
 カバンは高校生バック。

黒羽大成
 第一、もしくは第二までボタンは開ける。
 ネクタイはせず、持っているだけ(式典の時などは着ける)
 ニットはあまり着ない。
 靴はスニーカーというよりもランニングシューズ。
 ベルトは学校指定品。
 高校生バック。

塩谷透馬
 第一第二下手すりゃ第三まで全開。
 ネクタイは緩く締める。
 ニットよりブレザー派。
 靴はコン●ースのオールスターで赤のハイカット(裏地は白)
 腰パンでなんか柄々した派手なベルト着用。
 夏場はYシャツの下に丸襟のシャツ。
 リストバンドとかピアスとかじゃらじゃら。
 白黒のメッセンジャーバックか、黄色のDパック。

山城基一
 制服を着るときはネクタイ無しでYシャツの下に黒T。
 基本的に腕まくり。
 ニットの有無は気温によって。
 靴は一年時ジャ●ーだったが、透馬に怒られ現在はプー●に。
 ベルトは黒でちょっとゴツめ。
 体育の後、たまに頭にタオルを巻いている。
 黒のリュック。

蒲田明奈
 基本は校則通り。
 ニットより先にブレザー着脱。
 スカートは膝チョイ上(切って上げた)
 靴はこげ茶のローファーとスニーカー併用。
 靴下は黒のワンポイント。
 薄茶に茶色の格子柄リュックと小さい手提げ。

多賀真護
 四、五種類のスーツをローテーション(選ばなくてすんで楽だから)
 ネクタイは気分によって。





通勤通学は余裕を持って


あさぎ
 家―自転車25分/車10分ちょっと→北高前駅―電車45分→
 木田駅―徒歩5分→木田高

大成
 家―自転車15分→木田高

基一
 家―徒歩5分ちょっと/自転車2分くらい→木田高

透馬
 家―原付40分→木田高(悪天候時は明奈参照)

明奈
 家―車5分/自転車10分→下山駅―電車30分→
 木田駅―徒歩5分→木田高

多賀
 家―車25分→木田高







  2010/06/28