無言のまま山を下った二人は、それでも並んで家路を辿る。
見る見るうちに、日は赤さを増し、浜路と信乃を赤く染めていた。
「日が暮れるわ」
重苦しい空気の中、浜路が呟いた。
山に残った額蔵の曖昧な笑顔が、脳裏に浮かび、良心がチリリと痛んだ。
だが、信乃は何でもない様な顔をして、大塚村へと歩を進めた。
犬塚家は、大塚村の中心から大きく外れた場所に居を構えている。
近所と呼べるのは隣の一軒のみのあばら家は、今にも森に飲み込まれてしまいそうな場所にあった。
何時もは静かな村外れの家からは、女の猫なで声が流れ出して来る。
声の主は、すぐに分かった。
不快感に、眉が寄る。
「浜路、ここまで来たら、大丈夫だよな?」
年下の従妹が肯くよりも早く、信乃は家を目指して駆けていた。