(迂闊にも程がある!)
信乃は、朝日の差し始めた大塚村を駆けていた。
父に託された宝刀、村雨丸。
それを守って生きると決めた。
亡き君主の弟、古河に居る成氏に刀を返す、その日まで。
けれど、その村雨丸は今、信乃の手には無い。
もしかしたら、すでに伯母たちの手中に落ちているのかも知れない。
不安が頭をもたげたが、すぐに思い直す。
信乃が古河へ向かうと宣言した時、亀篠も蟇六も、いっそ滑稽なほどに動揺した。
もしも手中にしていたなら、ただ隠し続けるだけで、信乃は古河には向かえない。
もしも信乃が、今現在村雨丸がどこに在るのかさえ知らないと分かっていたなら、信乃よりも先に見つけようと村中を探すはずだ。
(だから、きっとあいつらは何も知らない)
ならば、所在を聞くことは藪蛇だ。
駆けながら、信乃は考えた。
気絶する前に起きたこととと、状況を推測し、村雨丸がどこにあるかを。
(きっと、あそこに在るはずだ)
信乃の足は、迷わずに村外れを目指した。
目指すは、糠助の家だ。