(まずは、与四朗を埋めてやらなけりゃ)
亡くなる数日前、病床の母は言った。
「与四朗は、山の女神さまが、貴方を守るために、使わしてくれたのよ。
誰が笑っても、私はそれを信じているの。
信乃、貴方は何があっても大丈夫よ。
だから、強く生きなさい」
それは、絵空事染みていて、病床の母の世迷いごとにさえ思えた。
だが、今は違う。
孝の文字が描かれた珠は、与四朗の首を刎ねた時に、大量の血と共に信乃へと飛んだ。
この石が飛び出した故に、自分は生きている。
信乃は、与四朗に生かされたのだ。
そうでなくても、与四朗は何時も信乃を守っていた。
信乃の傍らで、かまどの横で、あの梅の木の下で。
何時も、いつも信乃を守っていたのだ。
手の平の珠はホカホカと、不思議なくらい温かい。
握り締めて、信乃は父の傍らを離れた。
向かうは、大塚村の外れの、犬塚家。